最近は、通勤や通学、リモートワーク中でもワイヤレスイヤホンを使う人が増えました。ケーブルのわずらわしさがなく、スマートに使える一方で、「動画の音がずれる」「ゲーム中に音が遅れる」といった“遅延”の悩みを感じたことはありませんか?
この記事では、ワイヤレスイヤホンの遅延が起こる理由と、その改善方法をわかりやすく解説します。仕組みを知れば、ちょっとした工夫で快適さがぐっと上がります。
ワイヤレスイヤホンの遅延とは?どんなときに気になるのか
まず「遅延(レイテンシ)」とは、音が発生してから実際に耳に届くまでに生じる時間差のこと。
有線イヤホンでは信号が直接伝わるため、遅延はほぼゼロに近いですが、ワイヤレスイヤホンではBluetooth通信を使うため、どうしてもわずかなタイムラグが発生します。
音楽を聴くときには気にならない程度でも、動画視聴やゲームのように「映像と音が同時に進む」コンテンツでは、口の動きと声がズレたり、操作音が遅れて聞こえたりすることがあります。
特に0.1秒(100ms)以上ずれると、人は明確に「遅れている」と感じやすくなると言われています。
遅延の主な原因は「データの圧縮と通信」
Bluetoothで音を送るとき、スマホやPCの音声データはそのままでは大きすぎるため、まず圧縮されます。
この圧縮処理を行うのが「コーデック(Codec)」と呼ばれる技術です。
たとえば「SBC」「AAC」「aptX」「LDAC」「LC3」などの種類があり、種類によって音質と遅延のバランスが変わります。
- スマホ側で音声を圧縮(エンコード)
- 電波でイヤホンへ送信
- イヤホン側で展開(デコード)して再生
この3段階の間に、それぞれわずかな処理時間がかかります。これが積み重なり、結果的に「音が遅れて聞こえる」状態になるのです。
Bluetoothのバージョンやコーデックによる違い
遅延の大きさは、Bluetoothの世代とコーデックの種類によって大きく変わります。
- SBC:すべての機器が対応する基本コーデック。互換性が高い反面、遅延は大きめ(150〜200ms前後)。
- AAC:iPhoneなどで主流。音質は良いが、機器によってはやや遅れることも。
- aptX/aptX Adaptive:Androidで広く採用。遅延が少なく、音質も安定。
- aptX Low Latency:低遅延に特化。動画やゲーム向けだが、対応機器が必要。
- LDAC:高音質重視。やや遅延はあるが、音質とのバランスが良い。
- LC3(Bluetooth LE Audio):次世代規格。低遅延かつ省電力で、今後主流になる見込み。
イヤホンとスマホ(またはPC)の両方が同じコーデックに対応していないと、低遅延の恩恵は受けられません。
つまり、どちらかが古い規格だと自動的に遅延が大きいSBCで通信されてしまうのです。
通信環境や干渉も大きな影響を与える
Bluetoothは「2.4GHz帯」という周波数を使います。
この帯域は、Wi-Fiルーターや電子レンジ、ワイヤレスマウスなども使っているため、混雑しやすいのが弱点です。
電波干渉が起こると、データのやり取りがスムーズにいかず、結果的に音の遅延や途切れが増えます。
また、イヤホンとスマホの距離が離れすぎたり、間に壁や家具などの障害物があると信号が弱まり、遅延が悪化します。
できるだけ近い距離で、見通しの良い環境で使うのがポイントです。
ソフトウェアや設定の影響も見逃せない
遅延はハードウェアだけでなく、ソフトの設定でも左右されます。
- スマホやPCのBluetoothドライバ・OSが古い
- イヤホンのファームウェアが更新されていない
- 省電力モードがオンになって処理速度が落ちている
- Windowsで「オーディオ強化(Audio Enhancements)」が有効になっている
こうした要因でも、わずかながら遅延が増えることがあります。
一度ペアリングを解除して再接続したり、機器のアップデートを行うだけで改善するケースも多いです。
動画・ゲーム・通話…場面別にみる遅延の感じ方
音楽を聴く場合
再生ボタンを押して音が出るまでのタイムラグはほとんど感じません。BGMやストリーミングサービスでは問題なし。
動画を見る場合
映像と音のズレが0.1秒を超えると、口の動きと声のタイミングがずれて気になります。
特にSBCコーデックではズレが大きく、aptXやLC3対応のイヤホンだと改善されます。
ゲームをプレイする場合
操作してから効果音が出るまでの反応速度が重要。
アクションゲームやリズムゲームでは遅延が少しでもあるとストレスが増します。
低遅延モードや専用トランスミッタ付きモデルの使用がおすすめです。
通話・ビデオ会議の場合
自分の声や相手の声にわずかな遅れがあるだけでも、会話のテンポが崩れます。
この場合も、最新のBluetooth規格や安定した通信環境が重要になります。
ワイヤレスイヤホンの遅延を改善する方法
では、実際にどんな対策をすればいいのか。すぐに試せる改善策を紹介します。
- Bluetooth機器を最新状態にアップデートする
イヤホンとスマホ・PCのファームウェアを更新しよう。互換性や通信の安定性が向上する。 - ペアリングをやり直す
一度接続情報を削除し、再ペアリングすると通信設定がリセットされ、遅延が改善することがあります。 - 省電力モードをオフにする
省エネ設定がオンだと処理速度が落ち、データ伝送が遅れる場合があります。 - Bluetoothコーデックを変更する
Androidなら「開発者向けオプション」でコーデックを選べることがあります。aptXやAACを選ぶと遅延が減ることも。 - 接続環境を見直す
イヤホンとスマホの距離を近づけ、障害物を減らす。電子レンジやWi-Fiルーターなど、電波干渉源を遠ざける。 - 低遅延モード・ゲームモードを使う
最近のイヤホンには「ゲームモード」など低遅延設定が用意されていることがあります。動画視聴時にも効果的です。 - どうしても気になるなら有線接続も検討する
音楽制作やプロゲーマーのように“完全な同期”が必要なら、有線イヤホンが最も確実です。
技術の進化で遅延はどこまで改善される?
ワイヤレスイヤホンの遅延問題は、ここ数年で大きく改善されています。
Bluetooth 5.2以降では「LE Audio」という新しい通信方式が登場し、従来よりも低遅延・省電力を実現。
さらに「LC3」という新コーデックによって、音質を保ちながら通信の遅れを最小限に抑えられるようになりました。
また、aptX Adaptiveのように通信状況に合わせて自動で遅延を調整する技術も増えています。
今後は、ワイヤレスでも「ほぼリアルタイム再生」が当たり前になる時代が近いでしょう。
購入前にチェックしておきたいポイント
ワイヤレスイヤホンを選ぶときは、次の点を確認しておくと失敗しにくいです。
- Bluetoothバージョンは5.0以上か
- 低遅延コーデック(aptX Low Latency・Adaptive・LC3など)に対応しているか
- スマホやPCも同じコーデックを使えるか
- 通信の安定性を重視しているモデルか(ゲームモード搭載など)
- 最新のファームウェアにアップデート可能か
「遅延ゼロ」をうたう製品でも、環境や接続機器によって結果は変わります。
性能だけでなく、実際の使用シーンをイメージして選ぶのがポイントです。
ワイヤレスイヤホンの遅延はなぜ起こる?まとめとこれからの選び方
ワイヤレスイヤホンの遅延は、音声データの圧縮・転送・展開といった仕組みの中で自然に発生するものです。
しかし、通信環境を整えたり、低遅延コーデックや最新規格のイヤホンを使うことで、その差はぐっと縮められます。
大切なのは「自分の使い方に合ったレベルの遅延対策」を知ること。
動画やゲームを快適に楽しみたい人は、低遅延仕様のモデルを選び、日常の音楽リスニング中心なら音質やバッテリーを優先しても問題ありません。
今後はBluetooth LE AudioやLC3の普及で、ワイヤレスでもほぼ遅延を感じない時代が来るはず。
仕組みを理解して選べば、もう「音がずれる」ストレスとはさよならです。
