「乳酸閾値」という言葉、聞いたことはあっても具体的に何を意味するのか、どう活用すればいいのかよく分からないという人も多いのではないでしょうか。
ガーミン(Garmin)のランニングウォッチには、この乳酸閾値を自動で推定・記録してくれる機能があります。数値を知ることで、自分に合ったトレーニング強度を設定できるようになり、効率的に持久力を伸ばせるのです。
今回は、乳酸閾値の基本的な意味から、ガーミンを使った測定方法、そしてトレーニングでの活用法までを、実体験を交えながら分かりやすく解説していきます。
乳酸閾値とは?まずは基本を知ろう
乳酸閾値(Lactate Threshold、略してLT)とは、運動強度を上げていったときに体内で乳酸が急激に増え始めるポイントのことを指します。
乳酸は、体がエネルギーを作る過程で生じる副産物のようなもの。軽い運動ならすぐに処理されますが、強度を上げると処理が追いつかなくなり、血中に乳酸が蓄積し始めます。
つまり乳酸閾値とは、「疲労が急に増える境目」です。
このポイントを超えると、体が酸性化し筋肉が動きにくくなり、ペースを維持できなくなります。逆に、乳酸閾値以下の強度であれば、長時間運動を続けられるというわけです。
一般的に、乳酸閾値は最大心拍数の85〜90%程度に相当すると言われています。これは、多くのランナーが10kmやハーフマラソンを走るペースに近い強度です。
なぜ乳酸閾値を知ることが大切なのか
トレーニングをしていると、「今日は頑張った」「ちょっと楽だった」という感覚的な指標に頼りがちですが、乳酸閾値を知ると、明確な“数字”をもとにした強度管理ができます。
そのメリットは大きく3つです。
- 効率よく持久力を高められる
乳酸閾値付近の強度で走ると、心肺機能と乳酸処理能力を同時に鍛えられます。いわゆる「閾値走(テンポラン)」がこれにあたります。 - レースペースを設定しやすい
自分の乳酸閾値を知ることで、「どのくらいのペースなら最後まで持つのか」が明確になります。特にハーフマラソンやフルマラソンのペース設定に役立ちます。 - トレーニングの成果が数値で分かる
乳酸閾値の心拍数やペースが上がれば、それは確実に持久力が伸びている証拠。努力の成果を客観的に把握できます。
ガーミンで乳酸閾値を測定する仕組み
ガーミンでは「Lactate Threshold」または「LTHR(乳酸閾値心拍数)」として、デバイス上で自動的に推定してくれます。
この仕組みは、心拍数・ペース(またはパワー)・VO₂Maxなどのデータを解析し、身体の反応から乳酸閾値を導き出すというものです。
血液を採取して乳酸濃度を測るようなラボ検査とは違い、走るだけで推定できるのが大きなメリット。
主に次の2通りの方法があります。
- 自動検出
日々のランニングデータをもとに、ガーミンが「この強度が乳酸閾値だ」と判断して自動で更新します。継続的にデータを取ることで精度が上がります。 - ガイド付きテスト
対応モデルでは、「乳酸閾値テスト」を手動で実施できます。ウォームアップ→指定ペース走→クールダウンという流れをガーミンが指示してくれ、終了後に閾値を提示します。
この機能を使うには、胸部心拍計などの正確な心拍センサーを使うのがおすすめ。手首心拍でも測定できますが、精度はやや劣る傾向があります。
乳酸閾値の測定手順と注意点
では、実際にガーミンで乳酸閾値を測るにはどうすればいいのでしょうか。流れはとてもシンプルです。
- ユーザープロフィールを設定
年齢、体重、安静時心拍数などの基本データを正確に登録します。最大心拍数(Max HR)も重要な項目です。 - VO₂Maxの推定値を取得
普段のランやサイクリングの記録から自動的に計算されます。これが乳酸閾値の推定に使われます。 - 一定の強度で走る
20〜30分程度、ややきついペースで安定して走ることで自動検出が可能になります。
もしくは、ガイド付きテストを選択して実施します。 - 結果を確認し、心拍ゾーンを更新
テスト後にデバイスが「乳酸閾値心拍数を基にゾーンを更新しますか?」と表示。承認すれば自動的に心拍ゾーンが再設定されます。
注意点として、環境や体調によって心拍数が変動するため、同じ条件で何度か測定するのが望ましいです。
また、初期設定の最大心拍数が正しくないと結果が大きくズレることがあるので、できるだけ自分の実測値を入力しましょう。
トレーニングでの活用法:数値を「使う」ことが大切
乳酸閾値を知るだけで終わりにせず、トレーニング設計に落とし込むことで効果が最大化します。ここからは実践的な活用法を紹介します。
1. 閾値走(テンポラン)
もっとも基本的な使い方です。
乳酸閾値付近、もしくはやや下のペースで20〜40分走るトレーニング。
心拍数で言えば、LTHRの95〜100%あたりが目安です。
「少しきついけど、会話はギリギリ続けられる」くらいの強度を維持します。これを週1回取り入れるだけで、持久力の伸びを実感できるはずです。
2. イージーランやLSDの強度設定
回復目的や脂肪燃焼を狙ったランでは、乳酸閾値の70〜80%程度を目安にすると良いでしょう。
強度を上げすぎず、体を動かす感覚を保ちながら走ることで、オーバートレーニングを防げます。
3. レースペースの参考にする
乳酸閾値は「持続可能な限界強度」でもあります。
例えば、ハーフマラソンのペースは閾値ペースに近く、フルマラソンはその90〜95%程度が理想的。
ペース表やトレーニングプランを作るときに活用できます。
Garminの乳酸閾値推定はどこまで正確?
ウェアラブル機器の乳酸閾値推定は非常に便利ですが、当然ながらラボ測定とまったく同じではありません。
Garminの数値はあくまで「心拍データからの推定値」です。血液を採取して測る科学的な測定とは異なります。
とはいえ、日常のトレーニング管理という目的では十分に実用的です。
特に以下の条件を整えると、精度が高まりやすくなります。
- 胸部心拍計を使用する
- 体調が良く、気温や湿度が安定している日に測定する
- 数回のランでデータを蓄積して平均値を取る
- 最大心拍数やVO₂Maxの設定値を定期的に更新する
このように環境を整えて繰り返し測定すれば、ガーミンの乳酸閾値機能は信頼できる「トレーニングの指針」になります。
乳酸閾値を活かした賢いトレーニング戦略
乳酸閾値をベースにトレーニングを組み立てると、強度のバランスが取りやすくなります。
たとえば次のような配分です。
- 週の70〜80%:LTHRの70%以下(イージーランやジョグ)
- 週の10〜20%:LTHRの90〜100%(閾値走やテンポラン)
- 週の10%:LTHRの100%超(インターバルや坂道ダッシュ)
このように強弱をつけることで、疲労をためすぎず、効率的に能力を伸ばせます。
乳酸閾値は、単に「数値」ではなく、「自分の体と対話するための目安」なのです。
ガーミンの乳酸閾値機能を使いこなそう
乳酸閾値を理解し、ガーミンで定期的に測定・更新することで、トレーニングの質は大きく変わります。
闇雲に走るのではなく、「今の自分がどの強度でどれだけ走れるか」を客観的に把握できるようになるからです。
もちろん、ガーミンの推定値は万能ではありません。
あくまで参考値として、感覚や体調と照らし合わせながら使うのがベストです。
それでも、この数値を意識することで、これまでの「なんとなくの練習」から一歩進んだ「科学的トレーニング」に変わります。
ガーミンの乳酸閾値とは?測定とトレーニングの第一歩を踏み出そう
乳酸閾値とは、自分の持久力を見える化するための重要な指標です。
ガーミンなら、特別な機材や知識がなくても簡単に測定でき、日々のトレーニングに取り入れられます。
数値をもとにペースや心拍ゾーンを設定すれば、効率よく走力を伸ばし、レースでも安定したパフォーマンスを発揮できるはずです。
走るたびにデータが蓄積され、自分の成長を感じられるのもガーミンの魅力。
今日の一歩が、次のレースでの自己ベストにつながるかもしれません。
