最近、「スマートウォッチで血糖値を測定できる」という言葉を見かけるようになりました。健康管理への関心が高まる中で、腕時計で血糖値までチェックできたら便利ですよね。
しかし、その精度や信頼性はどうなのでしょうか。特に、時計ブランドとして知られるシチズンのスマートウォッチに「血糖値測定機能」があるという話も出回っています。この記事では、その真相と技術的な背景、そして医療レベルの信頼性についてわかりやすく解説します。
スマートウォッチで「血糖値を測る」とはどういうこと？
まず前提として、血糖値を測定するには通常、血液を採取して計測する必要があります。糖尿病の自己管理に使われる「血糖測定器」は指先に針を刺し、少量の血液を使って測る仕組みです。
一方、スマートウォッチでの「血糖値測定」は、皮膚に光を当て、その反射や吸収のパターンから血糖値を推定する“非侵襲（ひしんしゅう）型”の技術を指します。つまり、針を使わず光で血糖値を推定するという方法です。
理論的には魅力的ですが、光学センサーが血液中のグルコース濃度を正確に捉えるのは非常に難しいと言われています。皮膚の厚さや血流量、体温、汗など、さまざまな条件が数値に影響するからです。
現在の技術レベルでは「精度」に大きな課題
世界的に見ても、「非侵襲型血糖測定」はまだ研究段階にあります。
近赤外線や電磁波を利用する技術の開発は進んでいますが、医療レベルの精度を安定して出せるものはほとんどありません。実際、研究論文の中には「スマートウォッチでは血糖値の変化を正確に検出できなかった」という結果もあります。
医療機器としての血糖測定器は、国際基準（ISO15197など）で「95％の測定値が真値の±15％以内」という精度が求められます。この基準をクリアするためには、膨大な臨床試験データと厳密な校正が必要です。
一方、スマートウォッチの血糖値推定は、あくまで「推定値」。現時点で医療用基準を満たす製品はありません。
シチズンのスマートウォッチに「血糖値測定機能」はある？
ここが多くの人が気になるポイントでしょう。
結論から言うと、シチズン公式のスマートウォッチには血糖値を測定する機能は搭載されていません。
シチズンの公式サイトを見ても、心拍数、活動量、睡眠などの健康データを取得する機能はありますが、「血糖値測定」という文言は一切確認できません。
また、シチズンは2024年8月に「シチズンの名前を使った偽スマートウォッチに注意」という公式注意喚起を発表しています。そこでは、「血糖値を測定できると称するシチズン製品は当社とは関係ありません」と明確に述べています。
つまり、ネット上で見かける「シチズンのスマートウォッチで血糖値が測れる」という宣伝は、公式情報ではなく、偽ブランドや誤情報の可能性が高いのです。
海外当局も「スマートウォッチで血糖値を測るな」と警告
米国食品医薬品局（FDA）やカナダ保健省は、2024年に「スマートウォッチやスマートリングで血糖値を測定する製品を使用しないように」という公式警告を出しています。
理由はシンプルで、「これらの製品の多くは医療機器として承認されていない」からです。測定誤差によって、インスリン量を誤って調整したり、低血糖を見逃したりする危険があるとしています。
日本でも、医療機器として承認された「針を使わない血糖測定器」はまだ存在していません。つまり、現時点でスマートウォッチだけで正確な血糖値を把握することはできないのです。
もし血糖値が測定できるスマートウォッチが出たら？
技術的には、非侵襲血糖測定は夢の技術です。
もし実現すれば、糖尿病患者にとって大きな負担軽減になります。
AppleやSamsung、Googleなどの大手企業も長年研究を続けていますが、まだ商用化には至っていません。
今後、近赤外線分光や汗分析、間質液センシングなどの新技術が進化すれば、「医療レベルに近い血糖モニタリング」がスマートウォッチで可能になる未来も考えられます。
ただし、それには厳しい臨床試験と規制当局の承認が欠かせません。
シチズンをはじめとするメーカーが将来的に参入する可能性はありますが、現時点では「健康管理の補助」という範囲を超えていません。
医療レベルの「信頼性」をどう考えるか
ここで改めて、「医療レベルの信頼性」とは何を指すのか整理しましょう。
医療機器は、精度、再現性、安全性が厳しく求められます。
たとえば血糖測定器の場合、1回の測定値が数mg/dLずれるだけで、治療判断が変わることもあります。
そのため、精度検証は数千例単位のデータで行われ、第三者による認証を受けなければ販売できません。
一方、スマートウォッチの血糖値機能は「参考値」や「傾向を見るためのデータ」として位置づけられることが多く、臨床判断に使うことは想定されていません。
この差こそが「医療レベル」と「健康管理レベル」の違いなのです。
「血糖値が測れる」とうたう製品に注意
ネット通販サイトでは、「血糖値測定機能付きスマートウォッチ」と書かれた商品をよく見かけます。
しかし、これらの多くは医療機器認証を受けておらず、精度や安全性を保証するデータも公表されていません。
なかには、シチズンなど有名ブランドの名前を無断で使った偽製品も確認されています。
誤って購入すると、「数値がまったく変動しない」「血糖値の変化に反応しない」「サポートがない」などのトラブルにつながる可能性があります。
購入時は、メーカー公式サイトや正規販売店を必ず確認することが重要です。
血糖管理に使うなら「承認済みデバイス」を選ぶ
血糖値を日常的にチェックしたい場合は、承認済みの医療機器を選びましょう。
代表的なのは、持続血糖モニタリング（Dexcom CGM）システムやフラッシュ型血糖測定器です。
これらは皮下に小型センサーを装着し、血糖変動をリアルタイムで記録します。
一部のCGMはスマートウォッチやスマホアプリと連携してグラフ表示できるため、より手軽にデータを確認できます。
つまり、現時点では「スマートウォッチ単体で測定」ではなく、「医療機器＋スマートウォッチ連携」が現実的な選択肢です。
シチズンスマートウォッチの血糖値測定精度は？現時点での結論
最後に改めて整理します。
- シチズンのスマートウォッチに血糖値測定機能は搭載されていない
- 「血糖値を測定できる」とうたう製品の多くは偽物または未承認品
- 非侵襲血糖測定技術は研究段階であり、医療レベルの精度には達していない
- FDAや日本の専門機関も「スマートウォッチで血糖値を測るな」と警告している
- 血糖管理を目的とするなら、承認済みの医療機器やCGMを利用すべき
スマートウォッチの進化は目覚ましいものがあります。
しかし、「血糖値測定」という分野では、まだ慎重な姿勢が必要です。
もし「シチズンのスマートウォッチで血糖値が測れる」という広告を見かけたら、それが公式情報かどうか、まず確かめましょう。
そして、医療判断が必要な場面では、必ず医師や専門家の指導を受けることが安全です。
技術の進歩が本当に「安心して使える未来」をもたらす日を期待しつつ、今は正しい知識を持って製品を選ぶことが大切です。
