かつて「Xperia Tablet」シリーズで存在感を放っていたソニー。スタイリッシュで高性能なAndroidタブレットとして注目を集めましたが、気づけばその姿を市場で見かけることはなくなりました。
「ソニーはタブレットから撤退したの？」と疑問に思う人も多いでしょう。この記事では、ソニーのタブレット事業の歴史から撤退の背景、そして今後の展開までを、わかりやすく掘り下げていきます。
ソニーのタブレット事業の歩み
ソニーがタブレット市場に参入したのは、2011年。当時はまだiPadが登場して間もない頃で、「ポストPC」としてタブレットへの期待が高まっていた時期でした。
最初に登場したのは「Sony Tablet S」と「Sony Tablet P」。斬新な折りたたみデザインや独自UIを採用し、「家電メーカーらしい新しいタブレット」として注目を集めました。
しかし、使いやすさやアプリの最適化、価格帯などでiPadとの差は大きく、販売面では苦戦。翌年には「Xperia」ブランドに統一され、新たなスタートを切ります。
2013年以降、「Xperia Tablet Z」「Xperia Z2 Tablet」「Xperia Z3 Tablet Compact」「Xperia Z4 Tablet」と、デザインと性能を磨いたモデルを次々に投入。特に「Xperia Z4 Tablet」は軽量・防水・高画質を兼ね備えた完成度の高い機種として評価され、当時のAndroidタブレットの中ではトップクラスの存在でした。
それでも、華やかな製品群の裏では厳しい現実がありました。
販売台数は伸び悩み、AppleやSamsungと比べてシェアを維持するのが難しかったのです。
ソニーがタブレット事業を撤退した理由
ソニーのタブレット撤退は、2016年3月頃に実質的に完了しました。公式に「撤退」と明言されたわけではありませんが、販売終了の案内が販売店向けに出され、新機種の開発も止まったことで事実上の撤退とみなされています。
では、なぜソニーはこの分野から離れる決断をしたのか。主な理由は3つあります。
1. 競争激化によるシェア低迷
タブレット市場はAppleのiPadが圧倒的なシェアを握り、Android勢は苦戦を強いられていました。
高性能・高価格帯で勝負するソニーにとって、コスト競争や差別化は非常に厳しいものでした。
Samsungの「Galaxy Tab」シリーズや、Amazonの「Fire」などが低価格層を取り込み、Androidタブレット全体が「安価で十分」という市場認識に傾いたことも痛手でした。
ソニーのように高品質を武器とする企業ほど、その波に乗りにくかったのです。
2. 採算性の悪化と販売台数の減少
タブレットはスマートフォンとパソコンの間に位置する製品ですが、買い替えサイクルが長く、販売の伸びが限定的です。
Xperia Tablet Zシリーズも例外ではなく、製造コストの高さに対して販売数が追いつかない状況が続きました。
「高くてもソニーがいい」と支持してくれる層は一定数いましたが、それだけでは事業を維持できない。結果として、採算性の悪化が事業継続を難しくしたのです。
3. スマートフォン事業への集中
ソニーは同時期、スマートフォンのXperiaシリーズに経営資源を集中していました。
モバイル部門全体の収益性改善が急務だった中で、優先順位の低いタブレットが整理対象になったのは自然な流れでした。
「選択と集中」という経営判断が、タブレット撤退の直接的なきっかけになったと見られます。
Xperiaタブレットが残した評価と存在感
撤退後も、Xperia Tablet Zシリーズは一部のファンの間で語り継がれています。
防水・防塵性能、薄型軽量のボディ、そして美しいディスプレイ。どのモデルも「持つ喜び」を感じさせる完成度を誇っていました。
特に「Xperia Z4 Tablet」は、当時としては驚異的な軽さと高解像度を両立しており、2025年の今でも中古市場で高値で取引されることがあります。
また、ソニー独自の技術が詰め込まれたことで、映像や音楽再生のクオリティは群を抜いていました。
「タブレットで映画を観るならXperiaが一番」と語るユーザーも少なくありません。
惜しむらくは、サポート終了によりOSアップデートが止まり、現行アプリとの互換性が徐々に失われている点。
それでもなお愛用され続けるのは、ソニーらしい完成度の高さとブランドへの信頼感があるからです。
タブレット市場の変化とソニーの立ち位置
ソニーが撤退して以降、タブレット市場はAppleの独壇場となりました。
iPadは教育・クリエイティブ・ビジネスなど用途を広げ、Apple Pencilなど周辺機器との連携で「ノートPC代替」としての地位を確立しています。
AndroidタブレットはSamsungやXiaomi、Lenovoなどが細々と展開を続けているものの、明確なブランド主導権は存在しません。
Google自身も2022年頃からPixel Tabletを再び投入しましたが、iPadに迫るほどの勢いはまだありません。
そんな中でソニーは、タブレット市場からは距離を置きつつも、モバイル機器全体の技術開発は続けています。
スマートフォンのXperiaシリーズ、PlayStation関連デバイス、そして映像技術やセンサー開発など、得意分野にリソースを集中しているのです。
ソニーは今後タブレット市場に再参入するのか？
2025年現在、ソニーがタブレット事業を再開するという公式発表はありません。
しかし、AIや5G、クラウド技術の発展により、タブレットの役割は再び変化しつつあります。
リモートワークやデジタルノート需要、動画制作など、軽量で高性能なデバイスへのニーズは依然として存在します。
ソニーが得意とするカメラ技術や映像・音響分野を組み合わせれば、独自のプレミアムタブレットを再構築する余地は十分にあるでしょう。
とはいえ、再参入には大きな投資が必要であり、採算性の見通しを立てるのは簡単ではありません。
Xperiaスマートフォン自体も近年は販売地域を絞り、事業の効率化を進めている状況です。
現実的には、短期的なタブレット復活よりも、モバイル映像機器やハイブリッド端末への進化の方が可能性が高いと見られます。
ソニーが残したもの、そしてこれから
ソニーのタブレット事業撤退は、一見すると「失敗」に見えるかもしれません。
しかし、その技術やデザイン思想は、今のソニー製品の中にも息づいています。
・薄くて軽い筐体設計
・防水・防塵技術
・映像・音響の高品質化
・ユーザー体験を重視するUI設計
これらはすべて、Xperia Tablet Zで磨かれたノウハウであり、現在のスマートフォンやAV機器、さらにはPlayStationポータブル製品にも活かされています。
タブレットという形ではなくとも、「持ち運べるエンタメデバイス」という思想は続いているのです。
ソニーが今後どんな形で「ポータブルな映像体験」を再定義してくれるのか、期待して待ちたいところです。
ソニーがタブレット事業から撤退した理由と今後の展開まとめ
ソニーがタブレット事業から撤退したのは、競争激化と採算性の問題、そして事業集中の結果でした。
2016年以降、新モデルは登場していませんが、その技術は現在の製品群に確実に引き継がれています。
タブレット市場は今後もiPad中心で動く可能性が高いものの、AIやクラウド技術の発展が新しい形の端末を生み出す時代。
もし再びソニーがその波に乗る日が来れば、「Xperia Tablet Z」の精神が再び蘇るかもしれません。
タブレットの未来、そしてソニーの挑戦。その両方を、これからも静かに見守っていきましょう。
