最近では、スマートウォッチをつけていない人を探すほうが難しいかもしれません。
心拍数や睡眠、ストレスレベルまで測れる便利なガジェットですが、一方で「電磁波が体に悪いのでは？」「ずっと身につけていて大丈夫？」と不安の声もあります。
実際のところ、スマートウォッチは本当に健康に悪影響を与えるのでしょうか。ここでは、最新の研究や専門家の見解をもとに、科学的な視点から分かりやすく解説していきます。
スマートウォッチが出す「電磁波」はどんなもの？
まず知っておきたいのが、スマートウォッチが使っている電波の種類です。
BluetoothやWi-Fi、場合によってはLTEや5G通信を使って、スマートフォンやクラウドとデータをやり取りしています。これらは「無線周波数（RF）」と呼ばれる電磁波で、いわゆる“非電離放射線”に分類されます。
非電離放射線とは、X線や放射線のようにDNAを破壊する強いエネルギーを持たないタイプの電磁波。
つまり「スマートウォッチ＝放射線を出している」というわけではありません。
公的機関（ICNIRPやCDCなど）の基準によると、スマートウォッチから出る電磁波の強さは人が安全に曝露できる範囲にしっかり収まっています。
実際に測定した研究でも、体が吸収するエネルギー量（SAR値）は基準の何十分の一〜何百分の一レベル。
つまり、通常の使い方であれば体に有害な影響を及ぼすほどの電磁波は出ていないのが現実です。
「腕に密着している」ことへの不安と現実
スマートウォッチは常に肌に触れて使うため、「距離が近いのが怖い」と感じる人も多いでしょう。
たしかに、スマホはポケットやバッグに入れたり机に置いたりしますが、スマートウォッチは24時間腕につけっぱなしという人もいます。
この「長時間・密着」という条件が、体への影響を心配する理由の一つです。
しかし、研究によるとスマートウォッチの電磁波は非常に弱く、通信していない待機状態ではほとんど出ていません。
しかもBluetooth通信は間欠的で、データを送る瞬間だけごく短時間に信号を発しています。
つまり、常時電磁波にさらされているわけではないのです。
それでも「できるだけ安心したい」という人は、
・睡眠中は外す
・BluetoothやWi-Fiを必要時以外はオフにする
といった工夫で、電波の曝露をさらに減らすことができます。
発がんリスクはある？科学的な証拠をチェック
電磁波といえば、真っ先に思い浮かぶのが「がんになるのでは？」という心配です。
世界保健機関（WHO）傘下のIARC（国際がん研究機関）は、携帯電話などの電磁波を「発がんの可能性がある（グループ2B）」と分類しています。
ただし、これは「可能性が完全には否定できない」というレベルであり、明確な因果関係が確認されたわけではありません。
スマートウォッチに関しては、これまでのところ発がんとの関連を示すデータは存在しません。
そもそも電波の出力がスマホより圧倒的に低く、通信時間も短いため、リスクはさらに小さいと考えられています。
大規模な追跡調査でも、「スマートウォッチを長期間使用した人ががんを発症しやすい」という統計的な傾向は確認されていません。
現時点では「電磁波による発がんリスクは非常に低い」と見るのが科学的な妥当な結論です。
「電磁波過敏症」って本当にあるの？
「電磁波を浴びると頭痛やめまいがする」と感じる人もいます。これは「電磁波過敏症（EHS）」と呼ばれる症状です。
ただし、世界中で行われている実験では、「電磁波を出している状態」と「出していない状態」を区別できる人はほとんどいないという結果が出ています。
つまり、症状が出る原因は電磁波そのものではなく、ストレスや心理的要因が関係している可能性が高いとされています。
もしスマートウォッチをつけていて体調が悪いと感じたら、無理に我慢する必要はありません。
一度外してみて、体調や気分がどう変わるかを確認してみましょう。
「つけていると落ち着かない」と感じるなら、短時間の使用でも十分です。体と心の両方に無理をしないことが大切です。
電磁波以外の“体への影響”にも注意を
「スマートウォッチは電磁波よりも、むしろ物理的な影響のほうが問題になりやすい」という専門家の指摘もあります。
たとえば、
・長時間の装着で汗や皮脂がこもり、かぶれや湿疹が出る
・ベルトの締めすぎで血流が悪くなる
・充電端子やセンサー部分が肌に擦れて赤くなる
といった皮膚トラブルです。
特に夏場やスポーツ中など汗をかきやすい時期は、こまめに腕を拭いたり、たまにベルトを外して皮膚を休ませることが大切です。
金属アレルギーがある人は、素材選びにも注意しましょう。
また、スマートウォッチの「光」や「通知」も意外と侮れません。
夜に寝る前まで明るい画面を見たり、通知が頻繁に鳴ったりすると、脳が休まらず睡眠の質を下げることがあります。
せっかく健康のために使っているのに、逆にストレスが増えては本末転倒です。
使い方次第で「体にいいデバイス」にもなる
スマートウォッチは、使い方を工夫すれば健康管理の強い味方になります。
心拍や血中酸素濃度を定期的にチェックすることで、体調の変化にいち早く気づけたり、運動や睡眠の質を改善できたりします。
要は、「頼りすぎないこと」「自分の体調と対話するためのツールとして使うこと」がポイントです。
おすすめの使い方は以下の通りです。
- 睡眠中は外す：夜は体も腕も休ませる時間。
- 通信機能は必要時のみオン：常時Bluetoothをオンにしておく必要はありません。
- ベルトは清潔に保つ：汗や皮脂でかぶれを防ぐ。
- 一日の装着時間を決める：24時間つけっぱなしにせず、オフの時間を作る。
- 体調や気分を優先する：不快に感じたら無理して使わない。
こうした使い方を意識するだけで、スマートウォッチは“リスクのある機械”ではなく、“体を理解するパートナー”になってくれます。
今後の研究と私たちができること
スマートウォッチの普及はまだ10年程度。
科学的にも「長期的に人体へどんな影響があるか」を完全に把握しているわけではありません。
とくに今後、5Gや6Gといった高周波通信を使うモデルが増えると、人体への影響を再評価する必要が出てくるかもしれません。
それでも現時点では、「日常的な使用で健康被害が出る」という確かな証拠はありません。
各メーカーも国際基準に沿って電磁波の安全性を確認し、厳しい検査をクリアした製品だけを販売しています。
つまり、正しい知識と使い方を身につければ、スマートウォッチは安全に使えるツールだと言えるでしょう。
スマートウォッチは体に悪いって本当？結論と上手なつき合い方
結論から言うと、現時点の科学的な根拠では「スマートウォッチは体に悪い」とは言えません。
電磁波の強さは国際基準を大きく下回り、発がんや健康被害を裏づける確かなデータもありません。
むしろ、うまく使えば健康管理に役立つデバイスです。
ただし、装着しっぱなし・通信しっぱなし・睡眠中の使用などは避けるほうが安心です。
少しでも違和感を覚えたら、外す・通信をオフにするなど柔軟に対応しましょう。
「便利だからこそ、距離感を大事にする」——それがスマートウォッチと長く付き合うコツです。
あなたの腕の上の小さなデバイス。
それを敵ではなく、健康と上手につき合う味方に変えるのは、あなた自身の使い方次第です。
