ワイヤレスイヤホンを選ぶとき、「音質」ばかりに目がいきがちですが、実は通話品質を決めるのはマイクの性能です。
「相手に自分の声がこもって聞こえる」「ノイズが多くて聞き取れない」——そんな経験、ありませんか?
この記事では、ワイヤレスイヤホンのマイクの仕組みと、通話品質を高めるために使われている最新技術を、できるだけわかりやすく解説します。
そもそもワイヤレスイヤホンのマイクはどこにある?
耳にすっぽり収まる小さなイヤホン。その中に、実は複数のマイクが隠れています。
一般的な構造としては、外側に「外音を拾うマイク」、内側に「耳の中の音を検知するマイク」、そして通話用に「口元方向を向いたマイク」が配置されています。
マイクは、空気の振動(声)を電気信号に変換してスマートフォンに送る部品。
この変換を行うための技術には「MEMSマイク(Micro Electro Mechanical Systems)」という超小型マイクが主流です。
半導体製造技術を応用して作られており、小さくても高感度・低ノイズ。現在のワイヤレスイヤホンにはほぼ必ず搭載されています。
ただし、イヤホンは口元から遠い位置にあるため、マイクが直接あなたの声だけを拾うことはできません。
そこで活躍するのが、**複数マイクと信号処理による“ノイズ除去”と“声の強調”**なのです。
ビームフォーミングで「あなたの声」だけをキャッチ
通話中の周囲の雑音をどう減らすか。
ここで登場するのが「ビームフォーミング(Beamforming)」という技術です。
これは、複数のマイクで音を同時に拾い、それぞれの音の到達時間や位相の差をもとに、特定の方向(口元)からの音を強調する仕組み。
簡単に言えば、「マイクの耳をあなたの口元に向ける」ようなものです。
この技術によって、周囲の人の話し声や街の騒音など、不要な音を抑えながら自分の声を明瞭に届けられます。
最近では、左右のイヤホンに計6本のマイクを搭載し、AIがリアルタイムで最適化するモデルも増えています。
ENC・AIノイズキャンセリングで雑音をカット
ビームフォーミングだけでは消しきれないのが「環境ノイズ」。
そこで多くのイヤホンが採用しているのが「ENC(Environmental Noise Cancellation)」という技術です。
ENCは、複数マイクで拾った音を分析し、「人の声」と「環境音」を区別します。
たとえば、車の走行音やカフェのBGMのような連続的な音を識別し、通話相手に送る前にカット。
結果、あなたの声だけが相手にクリアに届くようになります。
さらに最近では、AIを活用したノイズ抑制も一般化しています。
AIが何百万種類もの雑音パターンを学習しており、リアルタイムで最適なフィルタリングを行う仕組みです。
これにより、これまで難しかった「風の音」「エアコンの低音」「複数人のざわめき」も驚くほど自然に抑えられるようになりました。
風切り音をどう防ぐ?マイク設計の工夫
屋外で話すときに一番やっかいなのが「風切り音」。
マイクの開口部に風が当たると、低い“ボフッ”というノイズが発生します。
これを防ぐため、メーカーは物理的な工夫を凝らしています。
たとえば、マイクの穴にメッシュ構造の風防を設けたり、風を逃がす小さな通気路を作ったり。
さらに、風が吹いているときの音のパターンを検知し、自動的にノイズリダクションを強化するアルゴリズムもあります。
物理設計とデジタル処理の両輪で、屋外通話でもクリアな音を実現しているのです。
骨伝導マイクという新しいアプローチ
最近注目されているのが、「骨伝導マイク」という技術。
これは、耳や頬骨の振動から声を検知する仕組みで、空気の音を拾わないため、周囲の雑音の影響をほとんど受けません。
たとえば、ランニング中の強風や電車内でも、自分の声を正確に拾うことができます。
一部の高級イヤホンでは、通常のマイクと骨伝導センサーを組み合わせて、より自然な音声を生成するハイブリッド構成を採用しています。
Bluetooth伝送と通話品質の関係
マイクで拾った音は、Bluetooth経由でスマートフォンへ送られます。
このとき使われるのが「HFP(ハンズフリープロファイル)」という通話用の通信規格。
ただし、音楽再生時に使われる高音質コーデック(AACやLDACなど)よりも通信帯域が狭く、音質が落ちることがあります。
最近では、Bluetooth LE Audioの登場により、この問題が改善されつつあります。
新しい規格では「super wideband」モードがサポートされ、通話時でも広帯域の音声伝送が可能に。
つまり、従来よりも自然で聞き取りやすい声で会話できるようになっています。
通話品質を左右するのは「マイク数」と「配置」
同じ価格帯でも、通話品質に大きな差が出るのはなぜでしょう?
その理由のひとつが「マイクの数と配置」です。
マイクが1つだけのイヤホンでは、どうしても雑音を取り除くのが難しくなります。
一方で、3〜6本のマイクを搭載しているモデルでは、音源方向の解析精度が高まり、声とノイズをより正確に分離できます。
また、外側のマイクは外音を拾い、内側のマイクは耳の中の音を測定し、両者を比較してノイズを打ち消すという設計もあります。
このように、ハードウェアの配置とソフトウェア処理が連携してこそ、高品質な通話が実現します。
装着の仕方でもマイク性能は変わる
意外と見落とされがちなのが、「装着の向き」や「耳へのフィット感」です。
イヤホンのマイク穴が髪の毛やマスクで覆われていると、声がこもったりノイズが増えたりします。
最適な装着位置は、口元に対して少し下を向く角度。
また、耳への密閉度が高いほど外部ノイズを抑えられ、マイク処理も安定します。
イヤーチップを自分の耳に合ったサイズに変えるだけでも、通話品質がぐっと上がることがあります。
バッテリーとマイク性能のトレードオフ
マイクでノイズ除去やAI処理を行うと、どうしても電力を消費します。
そのため、長時間通話を続けるとバッテリーが早く減ることがあります。
最近のモデルでは、省電力なDSP(デジタル信号プロセッサ)を搭載し、必要なときだけ処理を強化する仕組みを採用。
これにより、通話時間を維持しながら音声品質を保つことができるようになりました。
とはいえ、バッテリー残量が少なくなるとマイクの感度やノイズ処理性能が落ちることもあります。
重要な通話の前には、しっかり充電しておくのがおすすめです。
今後の進化とこれからのマイク技術
今後のワイヤレスイヤホンは、さらにAIとセンサー技術の融合が進むと予想されています。
たとえば、ユーザーの声の特徴を学習して、その人の発声に最適化されたフィルタリングを行う「個人最適化マイク」。
あるいは、装着状態を検知してリアルタイムでマイク感度を調整する技術も登場しています。
また、LE Audioなど新しい無線規格によって、低遅延・高音質な通話が普及すれば、リモート会議や配信にもワイヤレスイヤホンが主役になる日も近いでしょう。
まとめ:ワイヤレスイヤホンのマイクの仕組みを理解して、快適な通話を
ワイヤレスイヤホンのマイクは、ただ声を拾うだけの単純な装置ではありません。
小さなボディの中に、複数のマイク、AI処理、ノイズキャンセリング、風切り音対策など、数多くの技術が詰め込まれています。
通話品質を左右するのは、マイクの数・配置・ビームフォーミング・AIノイズ除去・Bluetooth伝送などの総合的なバランス。
もし「声がこもる」「ノイズが気になる」と感じるなら、マイク性能に注目してイヤホンを選んでみてください。
高性能マイクを搭載したSony WF-1000XM5やJBL LIVE PRO 2 TWSなら、通話もストレスフリーに。
次に誰かと話すとき、きっと「声がすごくクリアだね」と言われるはずです。
