ランナーやサイクリストの間で人気の高いガーミン。
その中でも気になるのが「VO₂max(最大酸素摂取量)」という数値です。
トレーニング効果やパフォーマンスの目安として多くの人が参考にしていますが、SNSや掲示板では「ガーミンのVO₂maxはあてにならない」という声も少なくありません。
この記事では、VO₂maxの基本から、ガーミンの推定方法、精度の実態、そしてできるだけ正確に使うためのコツまでを、最新情報をもとにわかりやすく解説します。
VO₂maxとは?まずは基礎を押さえよう
VO₂max(最大酸素摂取量)とは、「運動中に身体が最大限に取り込んで利用できる酸素の量」を示す数値です。単位は「mL/kg/分」。つまり、体重1kgあたり1分間にどれだけ酸素を消費できるかを表しています。
この数値が高いほど、より多くの酸素を使ってエネルギーを作れる=持久力が高いということになります。
本来は専門施設で呼気ガス分析を行い、マスクをつけて酸素と二酸化炭素の出入りを測定して求めます。いわば「心肺能力の実測値」です。
ですが、当然ながらこれは簡単にできる検査ではありません。費用も手間もかかるため、日常的なトレーニングで利用するのは現実的ではありません。
ガーミンのVO₂maxはどうやって算出しているのか
ガーミンのVO₂maxは、実際に酸素を測定しているわけではありません。
心拍数データやランニングペース、スピード、ケイデンスなどをもとに、アルゴリズムで推定しています。
このアルゴリズムは、フィンランドのFirstbeat社が開発したもので、心拍数の上昇に対してスピードがどれくらい出せているかを分析し、そこから「体がどれだけ効率よく酸素を使えているか」を間接的に計算する仕組みです。
要するに、ガーミンのVO₂maxは「心拍数とスピードの関係」から導き出された“推定値”です。
そのため、心拍数の計測精度やランニング条件に大きく左右されるのが特徴です。
「あてにならない」と言われる理由
多くのランナーが感じている「ガーミンのVO₂maxは信頼できない」という印象。
その背景には、いくつかの要因があります。
1. 心拍数計測の誤差
手首で測る光学式心拍計は、便利な反面、動きや汗、気温によって誤差が出やすい傾向があります。
特にスピード練習やインターバルでは、実際より心拍数が高く出たり、遅れて反応したりすることが多く、それがVO₂maxの推定値にも影響します。
胸ベルト式の心拍センサーを使うと精度は上がりますが、それでも完全に実測にはなりません。
2. アルゴリズムが「平均的な人」を基準にしている
ガーミンの推定モデルは、一般的な市民ランナーを想定して作られています。
そのため、すでに高い持久力を持つ上級ランナーや、極端に運動習慣のない初心者の場合、アルゴリズムがうまく当てはまらずに誤差が大きくなりがちです。
3. 外的要因の影響が大きい
気温や湿度、睡眠不足、ストレス、疲労など、日々のコンディションによって心拍数は変動します。
同じペースで走っても心拍が高ければ、ガーミンは「VO₂maxが下がった」と判断してしまうこともあります。
4. 初回データや短時間データは不安定
初めての計測や、短い距離・低負荷のアクティビティでは、VO₂maxの推定が安定しません。
複数回のトレーニングを重ねてデータを蓄積することで、ようやく安定した傾向が見えるようになります。
実際の研究ではどう評価されているのか
2020年代以降、ガーミンを含むスマートウォッチのVO₂max精度を検証した研究がいくつも行われています。
・中程度のトレーニング経験者では、ラボ測定と比較して誤差が3〜5%程度と比較的良好。
・一方で、アスリートや高い持久力を持つ人では、誤差が10%を超えるケースも多い。
・また、一部の研究では「実測より平均4〜6mL/kg/分低く出る傾向がある」と報告されています。
つまり、「おおよその傾向をつかむには使える」が、「実測と完全一致を求めるのは無理」が実態です。
SNSやランナーのリアルな声
ネット上には、「ガーミンのVO₂maxが実際より低すぎる」「走力が上がっているのに数値が下がる」といった声が数多く見られます。
一方で、「実測テストとほぼ同じ数値が出た」「トレーニングの変化を追うには便利」といったポジティブな意見もあります。
共通しているのは、**“個人差が非常に大きい”**という点。
条件が整えば近い値になることもありますが、日によって上下するのも当たり前です。
つまり、VO₂maxを「正確な数値」として捉えるのではなく、「コンディションやトレーニングの変化を知る指標」として扱うのが現実的です。
あてにならないと思う前に試したい改善のコツ
ガーミンのVO₂maxを少しでも実態に近づけるには、いくつかの工夫があります。
1. プロフィール情報を正しく入力する
年齢・性別・身長・体重に加え、最大心拍数(Max HR)は必ず自分の実測値に設定しましょう。
年齢からの自動計算(220−年齢)は誤差が出やすく、VO₂maxにも影響します。
2. 胸ベルト心拍計を使う
光学式よりも安定した心拍データが取れるため、推定精度が上がります。
特にインターバル走や坂道走など、変動の大きいトレーニングでは必須です。
3. 条件を整えて測定する
VO₂maxを更新する際は、屋外の平坦な道で15分以上、一定ペースで走るのが理想です。
暑い日や寝不足の日は避け、体調が安定しているときに行うのがコツです。
4. 1回の数値ではなく「傾向」を見る
ガーミンのVO₂maxは1回ごとに上下します。
数値そのものに一喜一憂するより、数週間単位での推移を見て、「上がってきた」「下がり気味」といった傾向で判断するのが正解です。
5. 他の指標と併用する
トレーニングステータス、回復時間、ランニングダイナミクスなども合わせて見ると、VO₂maxの変化に納得感が出ます。
ガーミンの数値は単独より“組み合わせ”で見ることで生きてきます。
「ガーミンのVO₂maxはあてにならない?」その答えは「使い方次第」
結論から言えば、ガーミンのVO₂maxは“万能ではないけれど、十分使える指標”です。
たしかに、呼気ガス分析のような正確性はありません。
けれど、日常のトレーニングで手軽にVO₂maxの変化を追えるというメリットは大きい。
重要なのは、「VO₂max=絶対的な数値」ではなく、「体の状態を把握するための1つの目安」として使うことです。
数値が下がったときは焦らず、「睡眠不足だったかな」「暑かったかな」と要因を振り返る。
上がったときは「最近の練習がうまくハマっているな」とポジティブに捉える。
そうした意識の持ち方が、長くトレーニングを続けるうえで大切です。
まとめ:ガーミンのVO₂maxを味方にするために
- VO₂maxは「心肺能力の目安」であり、正確な実測値ではない。
- ガーミンの数値は“推定値”として、条件や設定で大きく変わる。
- 誤差はあるが、トレーニングの傾向や体調変化を追うには有用。
- 精度を上げたいなら、プロフィール設定・心拍計の種類・測定条件を見直す。
- 「正確さ」ではなく「継続的なモニタリング」で活かすのが賢い使い方。
ガーミンのVO₂maxが“あてにならない”と感じるかどうかは、あなたの使い方次第です。
数字に振り回されるのではなく、変化を楽しむツールとして活かす――。
それが、VO₂maxを味方にする一番の近道かもしれません。
