最近、スマートウォッチで「血中酸素濃度（SpO₂）」が測れるようになったことをご存じの方も多いと思います。睡眠の質や疲労度、健康状態をチェックできる便利な機能として注目されていますよね。でも、「この数値ってどこまで信用できるの？」と感じたことはありませんか？
今回は、スマートウォッチの血中酸素測定精度について、最新の研究や実例をもとにわかりやすく解説します。
スマートウォッチが血中酸素を測る仕組みとは
血中酸素飽和度（SpO₂）は、血液中のヘモグロビンがどれだけ酸素を運んでいるかを示す数値。通常は医療機関で「パルスオキシメーター」という機器を指に挟んで測定します。
一方、スマートウォッチは手首に装着するだけで、光学センサーを使って皮膚の下の血流を読み取り、血中酸素の割合を推定します。
ただし、この方式は「反射型」と呼ばれる仕組みで、医療用パルスオキシメーターが採用する「透過型」とは原理が異なります。
反射型は光が皮膚に反射する度合いを読み取るため、動きや肌の厚み、血管の位置、皮膚の色などに影響されやすいという特徴があります。つまり、仕組みの時点で「誤差が生まれやすい」構造なのです。
最新研究が示す「スマートウォッチの測定精度」
ここ数年、スマートウォッチの血中酸素測定精度を検証する研究が世界中で行われています。
・**Apple Watch Series 6**を使った研究では、医療用オキシメーターと比較した結果、平均誤差は約1〜2％。健康な人が安静にしている状態なら、十分な精度が得られることが示されています。
・一方、低酸素状態（SpO₂が90％を下回るような環境）では、誤差が±6〜8％まで広がることも報告されています。つまり、酸素が足りないときほど誤差が大きくなりやすいのです。
・別の研究では、Samsung Galaxy Watch 5やWithings ScanWatchなど複数メーカーのスマートウォッチを比較したところ、機種によるばらつきが大きく、一部の製品は国際的な医療機器規格を満たしていませんでした。
これらの結果から言えるのは、「安静時であれば比較的正確だが、体を動かしたり、酸素が少ない状態では誤差が増える」ということです。
なぜ誤差が出るのか？構造と使い方の問題
血中酸素の測定は、ちょっとした条件の違いで結果が変わります。スマートウォッチの構造上、次のような要因が誤差の原因になります。
- 装着のゆるさ・位置のずれ
手首にしっかりフィットしていないと、光の反射が安定せず正確に測れません。 - 体動や筋肉の緊張
運動中や歩行中は、手の筋肉や血流が変化し、ノイズが混ざります。 - 皮膚の厚みや色の違い
メラニン量や血管の深さによって光の吸収が変化し、測定に影響します。 - 温度や環境光の影響
寒さで血流が悪くなったり、外光がセンサーに入ると誤差が出やすくなります。
つまり、「正しい装着」「安静」「安定した環境」という3つの条件をそろえないと、精度が安定しにくいのです。
医療機器との違いと法的な位置づけ
スマートウォッチのSpO₂機能は、基本的に「健康管理・ウェルネス目的」として提供されています。
これは法律的にも重要なポイントです。日本では、血中酸素の測定を診断・治療目的で行うには、薬機法上の「医療機器」としての認可が必要です。
多くのスマートウォッチはこの認可を受けておらず、「目安のデータを提供する機能」という扱いになっています。
つまり、「医療機器レベルの精度を保証するものではない」という前提で使うべきです。
メーカーの説明にも「医療目的には使用できません」という注意書きが必ずあります。これを無視して自己判断するのは危険です。
それでも“使う価値がある”理由
では、信頼性に限界があるなら使う意味はないのか？――実はそうとも言えません。
スマートウォッチのSpO₂機能は、次のような“健康の変化を察知するきっかけ”として活用できます。
- 睡眠時の呼吸状態を知る
いびきや無呼吸傾向がある場合、夜間にSpO₂が下がることがあります。毎晩のデータから傾向を把握すれば、改善のヒントになることも。 - 運動時のコンディションチェック
登山やランニング中にSpO₂が極端に下がるようなら、オーバーワークや高地順応不足のサイン。 - 体調変化の早期発見
風邪や疲労時にSpO₂が低下することもあるため、「最近下がり気味」と感じたら休息のサインと捉えることができます。
要は、絶対値を信じるのではなく、「いつもより低い」「昨日より高い」といった“変化”を観察するのがポイントです。
精度を上げるためにできること
スマートウォッチの血中酸素測定をより正確に使うために、次のコツを押さえておくと良いでしょう。
- 手首にしっかりフィットさせる（きつすぎず、緩すぎず）
- 測定中は安静にする（腕を動かさず、姿勢を保つ）
- 皮膚が冷えているときは温める（血流を安定させる）
- 同じ条件で複数回測る（一度の数値だけで判断しない）
- 極端な値が続く場合は医師に相談する
これらを実践すれば、数値の安定性が高まり、日常的な健康チェックに十分役立てることができます。
今後の技術進化と期待
スマートウォッチのセンサー技術は急速に進化しています。
AIや機械学習を用いてノイズを除去したり、皮膚の個人差を補正するアルゴリズムも開発中です。
最近では、動脈血ガス分析に近い精度（誤差2％以内）を示す研究結果もあり、将来的には医療機器に近いレベルの性能が期待されています。
さらに、血中酸素以外にも、脈拍変動、体温、睡眠リズムなどを総合的にモニタリングすることで、健康状態をリアルタイムに可視化する「パーソナルヘルスモニタリング」の時代が到来しつつあります。
スマートウォッチの血中酸素濃度測定精度は“信頼していいが、過信は禁物”
まとめると、スマートウォッチの血中酸素濃度測定は「健康管理の目安としては十分信頼できる」ものの、「医療診断の代替にはならない」というのが現時点での結論です。
安静時や一定条件下では精度が高いですが、動いたり環境が変わると誤差が生じやすくなります。
大切なのは、数値そのものではなく、日々の変化を観察すること。
そして、気になる異常が続く場合は、必ず医療機関で正確な検査を受けましょう。
スマートウォッチは「体調の変化に気づくためのパートナー」です。
その強みを理解し、上手に使いこなすことが、これからの時代の“賢い健康管理”につながっていくのです。
