スマートウォッチは、健康管理やライフスタイルの可視化を目的に、いまや多くの人が身につけるデバイスになりました。
しかしその「便利さ」の裏側には、気づきにくい危険性も潜んでいます。
今回は、スマートウォッチの健康面・セキュリティ面におけるリスクを、最新の知見を踏まえてわかりやすく解説します。
スマートウォッチの普及と魅力
スマートウォッチは、腕時計の形をした小型デバイスに、スマートフォンの通知や健康計測、音楽再生、キャッシュレス決済などの機能を搭載した製品です。
心拍数や睡眠データを自動で記録し、アプリで可視化してくれる点が人気を集めています。
近年では、心電図（ECG）や血中酸素濃度（SpO₂）、ストレス測定など医療寄りの機能を備えるモデルも増加。
“日常で使える健康デバイス”としての立ち位置が確立しつつあります。
しかし、スマートウォッチは「常に肌に触れる機械」であり、「データを常時送受信する通信機器」でもあります。
そのため、健康被害や情報漏洩といったリスクを理解せずに使い続けると、思わぬトラブルを招く可能性があるのです。
健康リスク① 電磁波・電磁界の影響
スマートウォッチはBluetoothやWi-Fi通信を行うため、微弱な電磁波を発しています。
現行の国際基準に基づいて設計されており、通常の使用で直ちに健康被害が出ることはないとされています。
とはいえ、長時間・連続的に肌に密着させるという特性上、身体への影響を完全に否定することはできません。
特に次のような懸念が挙げられています。
- 皮膚近くの組織に対する電磁界曝露の影響
- 長期的な使用による慢性的ストレス反応
- 感受性の高い人（子ども、妊婦など）への影響
研究段階では明確な有害性は立証されていませんが、「安全性が完全に証明された」とも言い切れません。
スマートウォッチを使う際は、必要のないときは外すなど、体への負担を減らす工夫が推奨されます。
健康リスク② 皮膚トラブルや炎症
毎日着けっぱなしにしていると、手首の皮膚トラブルを起こすことがあります。
主な原因は以下のとおりです。
- バンド素材（ゴム・金属）によるアレルギー反応
- 通気性の悪さによる蒸れ・汗疹
- 長時間の圧迫による血行不良や痛み
装着時はきつく締めすぎない、定期的に外して肌を休ませる、バンドを清潔に保つことが重要です。
特にスポーツや就寝中に着ける場合は、肌への刺激を最小限に抑えましょう。
情報リスク① 個人データの収集と流出の危険
スマートウォッチは、心拍数や運動量、睡眠パターン、位置情報など、極めて詳細な個人データを記録します。
このデータはスマートフォン経由でクラウドに保存され、多くの場合、メーカーや関連アプリ事業者のサーバーに送信されます。
問題は、そのデータの扱いがユーザーに見えにくいことです。
中には以下のようなリスクがあります。
- 第三者企業へのデータ提供（広告や研究目的）
- どの国のサーバーに保存されているか不明
- 削除や共有停止の手段が明確でない
たとえば「歩数」「睡眠時間」「心拍数」などの数値から、生活習慣や体調、さらにはストレス状態までもが推測可能です。
つまり、スマートウォッチは自分の“健康の履歴書”を常に記録しているようなもの。
これが流出した場合、プライバシー侵害だけでなく、将来的に保険・雇用などで不利益を受けるリスクさえ指摘されています。
情報リスク② ハッキング・サイバー攻撃の脅威
2024年以降、スマートウォッチのハッキング事例や脆弱性が次々と報告されています。
特にBluetooth通信（BLE）を利用する機種は、通信暗号化が甘い場合、外部からアクセスされやすい傾向があります。
専門機関の調査では、安価な海外製スマートウォッチの中には、
「健康データ」「位置情報」「アプリ認証情報」が暗号化されず送信されていた例も確認されました。
さらに研究では、スマートウォッチのマイクやモーションセンサーを悪用して情報を盗み出す手法も存在します。
キーボード入力の振動からパスワードを推定したり、人の声を拾ってデータ化する技術まで登場しており、
一見安全そうなデバイスが、思わぬ“侵入口”になるケースが懸念されています。
情報リスク③ プライバシーポリシーの不透明さ
多くのメーカーは「データを安全に扱う」とうたっていますが、実際には次のような問題点が残っています。
- 収集目的や共有先が明記されていない
- データの保存期間・削除方法が不明確
- 第三者提供についてユーザーが選択できない
- 規約が頻繁に更新され、内容が理解しづらい
つまり、私たちは「何が、どこに、どのように使われているのか」を正確に把握できていないのです。
この不透明さが、スマートウォッチの最も深刻なリスクのひとつと言えます。
製品選びの注意点 ― 安さより「信頼性」
価格が安いスマートウォッチの中には、セキュリティ対策が十分でないものも多く見られます。
特に無名ブランドや、販売元・サポート体制が不明な製品は要注意です。
選ぶ際は以下の点を確認しましょう。
- メーカーの公式サイトやプライバシーポリシーの有無
- ソフトウェアアップデート（セキュリティ修正）の頻度
- 評判やレビューに「通信エラー」「データ漏洩」などの報告がないか
- 健康管理アプリがどの国のサーバーに接続しているか
また、高価格帯のブランドでも、データの扱い方が完全に透明とは限りません。
「どのメーカーでもリスクは存在する」と考え、自分で確認・管理する意識が大切です。
スマートウォッチを安全に使うためのポイント
便利さを享受しつつリスクを減らすには、日常的な使い方を工夫するのが効果的です。
以下のポイントを意識してみてください。
- 使わないときは通信をオフにする
BluetoothやWi-Fiを常時オンにしないことで、不正アクセスのリスクを減らせます。 - ソフトウェアを定期的に更新する
ファームウェアのアップデートには、脆弱性修正が含まれることが多いです。 - プライバシー設定を見直す
共有範囲やデータ保存の設定を確認し、不要な機能はオフに。 - 装着時間を短くする
皮膚トラブルや電磁波曝露を抑えるために、寝るときや長時間のデスク作業時は外す。 - 信頼できるアプリとだけ連携する
不明なアプリや非公式サービスとの連携は避け、純正アプリを中心に利用しましょう。
技術の進化と倫理的課題
スマートウォッチのデータは、医療や研究、保険、マーケティングなど多くの分野で活用が進んでいます。
その一方で、データの“二次利用”が進めば進むほど、「誰のために、どこまで共有して良いのか」という倫理的問題も浮上します。
健康データは本人にとって極めてセンシティブな情報です。
もし保険会社や企業がそれを利用して、契約や採用を判断するようになったら――。
便利さの裏に、“監視社会化”の危うさも潜んでいるのです。
今後、個人データ保護法や国際的な規制の整備が進む中で、ユーザー側も「自分のデータをどう扱うか」を主体的に考える姿勢が求められます。
スマートウォッチに潜む危険性を理解して賢く付き合う
スマートウォッチは、健康を可視化し、生活を整える強力なツールです。
しかし、その裏側には、電磁波・皮膚トラブル・個人情報流出・ハッキングといった多層的なリスクが存在します。
大切なのは、怖がることではなく「知ったうえで選ぶ」こと。
自分に必要な機能だけを使い、設定や装着方法を工夫するだけで、危険性は大きく減らせます。
便利さと安全性のバランスを取りながら、自分のデータと健康を自分で守る。
それが、これからのスマートウォッチとの正しい付き合い方です。
