クリエイター向けのPCを探していると、「ASUS MiniPC ProArt PA90」という名前を見かけることがあります。見た目は小さな筐体なのに、中身は本格的なワークステーション。果たしてその実力はどれほどのものなのか？今回は、クリエイティブ作業を支えるハードウェアとしてのPA90を、実際の性能や使い心地、注意点まで含めて詳しく見ていきます。
デスクに収まる“本気のワークステーション”
ASUSのProArtシリーズは、写真・動画・3Dなどの制作分野に向けて設計された製品群。その中でもASUS MiniPC ProArt PA90は、「高性能をコンパクトに収めたワークステーション」という位置づけです。
見た目はスタイリッシュな円筒形デザイン。約17センチ四方、高さ36センチという縦長フォルムで、デスク上にも無理なく置けます。クリエイターの作業空間はどうしても機材で埋まりがちですが、このサイズならPC自体が主張しすぎないのが魅力です。
それでいて、中身は本格派。CPUには第9世代Intel Core i9-9900Kを搭載。8コア16スレッド、最大5.0GHzという当時のハイエンドCPUです。グラフィックスはNVIDIA Quadro P4000またはNVIDIA Quadro RTX 4000など、プロ向けのGPUを選択可能。映像編集や3Dモデリングといった高負荷作業にもしっかり対応します。
ASUS MiniPC ProArt PA90が持つ“パワーの源”
この小さな筐体の中には、クリエイティブ作業に欠かせない要素がぎゅっと詰まっています。
まずCPU。Intel Core i9-9900Kは8コア16スレッドで、複数のアプリを同時に動かしても安定。動画の書き出しや3Dレンダリングのような処理にも余裕があります。
GPUのQuadroシリーズは、一般的なGeForceとは少し性格が違います。CADや3D CGなど、プロ用ソフトでの描画精度と安定性を重視して設計されています。AutodeskやAdobeなどのISV（独立系ソフトウェアベンダー）認証を受けており、プロ用途での信頼性が高いのがポイントです。
また、Thunderbolt 3ポートを2つ搭載。高速な外部ストレージや4Kモニタ、さらにはeGPUなどの拡張デバイスとも柔軟に接続できます。M.2 SSDを2基、2.5インチHDDを1基まで搭載可能で、速度と容量を両立できるストレージ構成も魅力です。
静音・冷却設計が光るクリエイティブマシン
小型PCは熱がこもりやすいというイメージがありますが、PA90はその点をうまく解決しています。CPUには水冷クーラーを採用。さらに、温度が上がると自動的に天面が開いてエアフローを確保するギミック付きです。これにより、高負荷時でも安定して冷却でき、動作音も非常に静か。レビューでは「フル負荷でも32dB程度」とされており、静かな編集環境でも気にならないレベルです。
長時間のレンダリングや動画エンコードを行っても、ファンの音が作業の妨げにならない。この“静かさ”は、意外と見落とされがちなクリエイター向けPCの重要なポイントです。
実際の作業で感じる快適さ
実機レビューでは、CinebenchなどのCPUベンチマークで優れたスコアを記録しています。動画編集ソフトで5分間の4K映像を1分ほどで書き出したという報告もあり、その処理速度はミドル〜ハイエンドのタワー型ワークステーションに匹敵します。
特にAdobe Premiere ProやDaVinci Resolve、Autodesk Mayaといった重めのソフトを使う場合でも、カクつきや処理待ちが少ないのが強み。メモリも最大64GBまで拡張できるため、複数のアプリを同時に立ち上げても余裕があります。
さらにThunderbolt 3経由で外付けのNVMe SSDを利用すれば、4K素材を直接編集するようなワークフローもスムーズ。高解像度素材を扱う映像制作者にとっては非常に快適な環境を構築できます。
コンパクト設計の“現実的な制約”
一方で、すべてが完璧というわけではありません。PA90は内部の拡張性が限られています。GPUの交換は事実上不可能で、ストレージ以外のパーツ換装は容易ではありません。将来的に最新GPUへアップグレードしたいユーザーには不向きです。
また、電源アダプタが2つあり、サイズも大きめ。机の下に隠す場所を確保する必要があります。筐体自体はスリムですが、ケーブル類を含めた設置スペースは意外と必要です。
そして価格。ワークステーションクラスの性能を考えれば妥当ですが、一般的なミニPCと比べると高価です。「軽い写真編集だけ」「YouTube動画を少しカットする程度」なら、もう少し手頃なPCでも十分かもしれません。
どんなクリエイターに向いているか
PA90が真価を発揮するのは、「スペースを抑えつつ、本格的な制作作業を行いたい人」です。
・4K映像の編集やカラーグレーディングを行う映像クリエイター
・CADや3Dレンダリングを行うデザイナー
・静音性を重視するレコーディング・音響関係のユーザー
こうした分野では、安定したパフォーマンスと静音設計の両立が欠かせません。PA90はその点で理想的なバランスを備えています。特に、狭い作業スペースで高性能を求めるクリエイターにとっては頼もしい存在です。
ProArt PA90が提示する“これからの制作環境”
ワークステーションというと、これまでは大きくて無骨なタワー型が主流でした。ところがPA90のように、ミニサイズながらプロ仕様の性能を備えたモデルが登場したことで、制作環境の選択肢が広がっています。
静かで省スペース。けれどもパワフル。そんな矛盾を成立させたのがこのPCの魅力です。動画編集や3D制作など、重い作業を行うのに「大きなマシンはちょっと……」と敬遠していた人にとって、PA90はまさに“ちょうどいい中間点”といえるでしょう。
ASUS MiniPC ProArt PA90の実力をどう評価するか
最後にもう一度、このPCの特徴をまとめます。
・Core i9搭載で処理能力が高い
・Quadro GPUで安定した描画性能
・静音・水冷設計で長時間運用に強い
・Thunderbolt 3やM.2など拡張性も確保
・ただしGPU換装や内部拡張には制約あり
ASUS MiniPC ProArt PA90は、コンパクトな外見からは想像できないほどの性能を持ち、クリエイターの現場を支える“本気のミニPC”です。価格は高めですが、その分、信頼性・静音性・処理能力という3拍子がそろっています。
限られたスペースで快適に制作を進めたい。そんなクリエイターにとって、PA90は今でも十分に検討に値する一台です。
