最近は、スマートウォッチで「血圧」が測れるというフレーズをよく見かけますよね。
でも実際のところ、「腕に巻くだけで本当に血圧がわかるの？」と疑問に思う方も多いはずです。
この記事では、スマートウォッチがどのように血圧を“推定”しているのか、その仕組みと限界をわかりやすく解説します。医療機器のような直接測定とは違うポイントを理解しながら、上手な使い方を一緒に見ていきましょう。
スマートウォッチの血圧測定は「光で血流を読む」仕組み
まず押さえておきたいのが、スマートウォッチが使う「光学式センサー（PPG）」という技術。
これは Photoplethysmography（フォトプレチスモグラフィー） と呼ばれ、血管の中を流れる血液の量を光の反射で測る方法です。
スマートウォッチの裏側には、緑色や赤色のLEDがついています。
この光が皮膚の下にある毛細血管に当たり、血液の量が多いときには多く吸収され、少ないときには多く反射されます。
その反射光をセンサーが検出し、血流のリズム（脈波）をグラフとして記録するのがPPGの基本原理です。
つまり、スマートウォッチは「光で脈の波を読む」ことで、心拍数や血流の変化をリアルタイムで捉えているのです。
なぜ「脈波」から血圧がわかるのか
血圧は「血管の中を流れる血液が壁を押す力」です。
従来の血圧計は腕帯（カフ）で腕を圧迫し、その圧力を数値化して測定します。
一方、スマートウォッチは血管を締め付けたりはしません。代わりに、脈波の形や伝わる速度 から血圧を「推定」します。
血圧が高い人は血管が硬く、脈波が速く伝わります。
逆に血圧が低い人は血管が柔らかく、脈波がゆっくり進みます。
この関係をもとに、「脈波伝播時間（Pulse Transit Time：PTT）」や「脈波速度（Pulse Wave Velocity：PWV）」という指標を利用して血圧を算出します。
つまり、スマートウォッチは「心臓が拍動してから手首に脈が届くまでの時間」や「脈波の形状」から、間接的に血圧を推定しているというわけです。
光学センサーの種類と仕組みの違い
スマートウォッチに使われる光学センサーには、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 透過型センサー
指先など薄い部分に光を通し、反対側で受光する方式。
医療用のパルスオキシメーターで使われています。 - 反射型センサー
光源と受光部を同じ側に配置し、皮膚で反射した光を測る方式。
スマートウォッチはこの反射型を採用しており、手首に密着させて測定します。
この「反射型」はコンパクトで装着しやすい一方、周囲の明るさや手首の動きなどに影響を受けやすいのが課題です。
それでも、日常的な測定には十分な精度を持つまで進化しています。
アルゴリズムが血圧を「学習して推定」する
最近のスマートウォッチは、単に脈波を読むだけでなく、AIや機械学習を使って血圧を推定しています。
装着者の脈波データを蓄積し、その特徴（波の立ち上がりやピーク、谷の位置など）を学習することで、より個人に合わせた推定が可能になります。
また、一部のデバイスでは「キャリブレーション（較正）」が必要です。
これは、最初に一般の血圧計で実際の値を測り、その結果をスマートウォッチに入力する工程。
こうしてアルゴリズムが「この脈波パターンは収縮期120mmHgくらい」と学ぶことで、以後は血圧をより精度高く推定できるようになります。
ただし、体調や姿勢、装着位置が変わると波形も変化するため、定期的な再キャリブレーションが推奨されています。
測定精度を左右する条件
スマートウォッチの血圧測定精度は、以下のような要素で大きく変わります。
- 手首の装着具合：センサーが密着していないと、光がうまく反射せず誤差が出やすい。
- 姿勢と安静状態：動きながら測るとノイズが混じりやすい。できるだけ座って安静にするのが理想。
- 肌の状態や色、体温：皮膚の反射率や血流の変化が測定に影響する。
- 環境光：太陽光や照明が強い場所では、外光がセンサーに入り誤差の原因になる。
また、個人差も大きく、同じ装置でも人によって結果が異なることがあります。
このため、スマートウォッチの血圧値は「参考値」として捉えるのが基本です。
スマートウォッチの血圧機能は医療機器とどう違うのか
ここで注意したいのが、「スマートウォッチは医療機器ではない」という点です。
腕に巻くタイプの血圧計は、医療機器としての認可を受けた上で販売されています。
一方、スマートウォッチの多くは「健康管理・フィットネス目的」で設計されており、診断や治療を目的とした機器ではありません。
つまり、スマートウォッチの血圧値を「診断結果」として扱うのは誤り。
医療行為の判断材料にするのではなく、「普段より高い」「最近下がってきた」など、変化の傾向を知るためのツールとして活用するのが正しい使い方です。
最近の技術トレンドと研究の進化
ここ数年、光学センサーの進化とともに、より高精度な血圧推定技術が研究されています。
- 光ファイバーセンサー：高感度・高速応答のセンサーで、脈波をより正確に取得。
- AI解析：PPG信号をディープラーニングで解析し、血圧推定モデルを個人最適化。
- マルチセンサー融合：PPGに加えて、心電図（ECG）や加速度センサーを組み合わせることで誤差を減らす。
これらの技術によって、将来的には「24時間連続血圧モニタリング」が現実になる可能性があります。
実際、研究レベルでは、平均誤差3mmHg程度まで精度が向上している例も報告されています。
それでも「参考値」として使うのがベスト
ここまで見てきたように、スマートウォッチでの血圧測定は非常に便利で、日常的な健康管理に役立ちます。
しかし、その数値はあくまで「推定値」であり、病院や医療機器で測った血圧と同等ではありません。
特に高血圧の診断や薬の調整など、医療判断が関わる場合は必ず医師による正式な測定が必要です。
スマートウォッチはあくまで「自分の体調の変化を知る目安」として使いましょう。
スマートウォッチで血圧を測る仕組みを正しく理解しよう
スマートウォッチの血圧測定は、光学センサーで脈波を読み取り、アルゴリズムで血圧を“推定”する仕組みです。
手軽に測定できる反面、環境や個人差によって誤差が出やすく、医療用の血圧計の代わりにはなりません。
それでも、自分の血圧傾向を日々チェックしたり、体調の変化を早めに気づくためのツールとしては非常に有用です。
大切なのは、「どういう原理で動いているのか」を理解して、正しく活用すること。
テクノロジーを上手に味方につけて、より健やかな毎日を過ごしていきましょう。
