iPhone 7、iPhone 8、そして…iPhone X? 多くの方が「iPhone 9」の行方に疑問を抱いたことでしょう。実際のところ、iPhoneのナンバリングには、Appleの深い戦略的な意図が隠されています。この記事では、iPhone 9が存在しない本当の理由を、当時の市場環境やAppleのマーケティング戦略から徹底解説します。
10周年という節目:iPhone Xという革命的な選択
iPhone 9が存在しない最も大きな理由は、2017年が初代iPhone発売からちょうど10周年という節目の年だったことにあります。Appleはこの記念すべき年に、単なる後継機ではなく、未来を示す「革命的なモデル」を投入することを計画していました。
それが、iPhone X(発音は「テン」)です。
「X」はローマ数字で10を意味します。iPhone Xは、それまでのiPhoneのデザインを根本から変えるものでした:
- フルスクリーンデザイン:ホームボタンを廃止し、前面ほぼ全体がディスプレイに
- Face ID:生体認証をTouch IDから顔認証へと完全移行
- Super Retinaディスプレイ:画期的な有機ELパネルの採用
もしこのモデルを「iPhone 9」と呼んでしまったら、単なる「iPhone 8の次のバージョン」という印象を与えてしまいます。Appleは、これが「まったく新しい世代の始まり」であることを、名称から明確に示す必要があったのです。
マーケティング心理:大きな飛躍を印象づける戦術
「9」から「10」への移行は、単なる数字の増加ではありません。消費者の心理に「大きな飛躍」を印象づける効果的なマーケティング戦術でした。
消費者は一般的に、製品番号が「9」から「10」に変わる時、それは「小幅な改良」ではなく「次世代への大きな進化」であると無意識に期待します。Appleはこの心理を巧みに利用しました:
- iPhone 8:従来のデザインと技術の集大成
- iPhone X:未来を見据えたまったく新しいコンセプト
この2モデルを同時に発表することで、消費者に明確な選択肢と価値の違いを提示したのです。もし「iPhone 9」という名称を使っていたら、この劇的な違いが名称からは伝わりにくかったでしょう。
「実質的なiPhone 9」と呼ばれるモデルの存在
面白いことに、「iPhone 9」に相当するモデルは、実際には別の名称で発売されています。それがiPhone SE(第2世代)です。
このモデルは2020年に発売されましたが、以下の特徴から「実質的なiPhone 9」と呼ばれることがあります:
- 外観デザイン:iPhone 8とほぼ同一(4.7インチディスプレイ、ホームボタン搭載)
- 内部性能:当時の最新チップA13 Bionicを搭載
- 市場ポジション:iPhone 8のデザインを継承しつつ、最新性能を提供
Appleはこのモデルを「SE」シリーズとして位置づけました。「SE」は「Special Edition」の略で、価格を抑えつつコアな性能は最新を提供するラインナップとして確立されています。この決定により、公式の「iPhone 9」が発売される可能性はほぼなくなったと言えるでしょう。
他社の類似事例:9を飛ばすことは特別ではない
実は、製品番号から「9」をスキップする戦略は、テクノロジー業界では珍しいことではありません。最も有名な例は、MicrosoftのWindowsです。
Windows 8の次は、Windows 9ではなくWindows 10でした。マイクロソフトはこの決定について、OSのアーキテクチャが根本から変わったため、単なるバージョンアップではなく「新しい世代」であることを示す必要があったと説明しています。
このような命名戦略の背景には、以下のような理由が考えられます:
- 大きな技術的進化を示す:消費者に「前世代とはまったく異なる」ことを印象づける
- マーケティング上のインパクト:メディアや市場の注目を集めやすい
- ソフトウェア互換性の問題回避:古いソフトウェアが「バージョン9以上」をチェックする場合の混乱を避ける(Windowsの場合)
都市伝説と噂:数字にまつわるさまざまな説
インターネット上では、iPhone 9が存在しない理由について、いくつかの興味深い都市伝説も流れています:
- 数秘術的理由:「9」は完成や終わりを意味するため、永遠に進化を続けるブランドには不適切という説
- 言語的配慮:日本語の「苦」や中国語の「久」の発音との連想を避けるためという説
- ジョーク由来:英語圏の有名なジョーク「Why was 6 afraid of 7? Because 7 ate 9(7が9を食べたから)」に基づく縁起担ぎ
ただし、これらの説には公式な裏付けはなく、多くの場合はユーモアや憶測の域を出ません。実際、Appleは「13」という数字を忌避せずにiPhone 13を発売していますし、日本市場でも「9」を特別に避けるような動きは見られません。
Appleの命名哲学:数字は順序ではなく意味を伝えるもの
Appleの製品命名には、一貫した哲学があります。それは「数字は単なる順序番号ではなく、製品のポジションや革新性を伝えるツールである」ということです。
この哲学は、iPhone以外の製品ラインでも見られます:
- iPad:iPad 4の次は「iPad Air」が登場
- Mac:MacBookのラインアップは「Air」と「Pro」に分岐
- Apple Watch:Series ナンバリングを続けつつも、「Ultra」などの特別なラインを導入
このように、Appleは市場の状況や製品の特徴に応じて、最も効果的な命名を行っています。iPhoneのナンバリングも、この柔軟な命名戦略の一環なのです。
未来にiPhone 9は登場するのか?
現在の状況を考えると、今後「iPhone 9」という名称のモデルが登場する可能性は極めて低いと言えるでしょう。
その理由は以下の通りです:
- 現在のラインナップが確立:数字シリーズ、Proモデル、SEシリーズという3本柱が固まっている
- SEシリーズの存在:従来デザインを継承するモデルは「SE」として確立された
- 「9」という番号の新鮮さが失われた:すでにスキップされた番号を後から使うメリットが薄い
将来、もし中価格帯や特定の市場向けに新型機を投入するとしても、それは「iPhone SE」の新型か、まったく新しいサブブランドとして登場する可能性が高いでしょう。
数字の向こうにあるAppleの戦略的思考
iPhone 9がない理由は、単なる「番号のスキップ」ではありません。10周年という節目、未来を見据えた製品開発、消費者の心理を理解したマーケティング、そして競合他社との差別化。これらすべての要素が複雑に絡み合った結果なのです。
私たち消費者は、時として製品の「名称」や「番号」だけに注目しがちです。しかし、その背景には、企業の長期的なビジョンと戦略的な意図が隠されていることを忘れてはいけません。
次にAppleから新しい製品が発表されるとき、その名称に込められたメッセージについても、少し考えてみてはいかがでしょうか。きっと、製品そのものとはまた違った発見があるはずです。
そして、もし誰かから「iPhone 9ってどうなったの?」と聞かれたら、この記事で学んだ「10周年の革命」「マーケティング戦略」「実質的な後継機はSE」という3つのポイントを教えてあげてください。あなたはもう、Appleの命名の秘密を知っているのですから。
