このところ様々なメディアで「AI(人工知能)銘柄」として名前を目にするLenovo Group。しかし、実際に株価チャートを見てみると、その動きは他のAI関連銘柄とは少し違う印象を受けるかもしれません。「世界最大のPCメーカー」という確固たる地位を持ちながら、株価にはなぜか勢いがない…そんなLenovoの株価に投資する価値は本当にあるのでしょうか? この記事では、表面的な「AIブーム」の話題を超えて、企業の本質的な価値と将来性を、最新の業績や専門家の分析をもとに徹底的に掘り下げていきます。
株価の低迷と専門家が指摘する「巨大な評価ギャップ」の正体
まずは、現在のLenovo Groupの株価がどのような状況にあるのかを見てみましょう。香港市場(0992.HK)では、2026年1月時点で8.64 HKD前後で推移しており、過去1年のパフォーマンスは約6.7%の下落となっています。世界的なAI需要が叫ばれる中、この数字を見ると「思ったより振るわないな」と感じる投資家も多いはずです。
しかし、ここに大きな投資のヒントが隠れているかもしれません。投資分析プラットフォームのSimply Wall Stが行ったDCF(割引キャッシュフロー)モデルによる分析では、Lenovoの1株当たりの内在価値は約25.66 HKDと推定されています。現在の市場価格(約8.78 HKD)と比較すると、なんと約66%もの割安が存在すると計算されるのです。さらに、業績に基づくPER(株価収益率)も、同業のテック企業平均の22.65倍に対して8.59倍と、非常に低い水準にあります。
この「株価が実力よりも大幅に低く評価されている」状態、つまり「評価ギャップ」に注目している専門家は少なくありません。例えば、香港の金融コラムニストである何車氏は、同社の妥当な企業価値を250億ドルと試算し(当時時価総額は約150億ドル)、目標株価を15.8 HKDと設定しました。また、星展銀行(DBS)は2025年11月のレポートで20 HKDという目標株価を提示しています。これらの数字は、現在の株価から考えれば非常に高い潜在的上昇率を示唆しており、市場の過小評価が修正される可能性を強く感じさせます。
AI戦略は絵空事じゃない:急成長する「AI関連事業」の具体的な数字
では、株価が割安だとして、その成長を支える具体的な中身はあるのでしょうか? ここで鍵を握るのが、Lenovoが力を注ぐAI戦略です。「多くの企業がAIに取り組んでいる」というのは聞き飽きた話かもしれませんが、Lenovoの場合は単なる未来の話ではなく、既に確かな収益に結びついている点が大きく異なります。
同社は「ハイブリッドAI」という考え方を推進しています。これは、すべてをクラウドで処理するのではなく、端末側(つまりあなたのPCやスマホ)でも適切に処理を分散させる方式で、速度とプライバシー保護の両方を実現しようというものです。そして、この戦略が着実に実を結んでいる証拠が、最新の業績に表れています。
2025/26会計年度第2四半期(7月から9月)の決算では、AI関連事業の売上がグループ全体の売上に占める割合が、いつの間にか30%に達していたのです。前の年と比べて13ポイントも上昇した、急成長分野です。内訳を見るとさらに明確になります。
- AIサーバー事業:堅調な二桁成長を記録。
- AI PC、AIスマートフォン、AIサービス事業:なんと三位数(数百%)の急成長を達成。
特に、私たち消費者に最も身近な「AI PC」の浸透スピードは目を見張るものがあります。Lenovoが世界に出荷するPC全体の中で、AI PCが占める割合は、2025年第1四半期に「30%を超えた」と発表されましたが、そのわずか数四半期後の第2四半期には33%にまで拡大しました。加速度的にAI PCが主流になりつつあるのです。この分野でのリーダーシップは明確で、世界のWindows AI PC市場において、Lenovoは31.1%のシェアを握り、トップの座を守り続けています。言うまでもなく、PC市場全体でも25.6%のシェアで過去最高を更新しており、その強さは揺るぎないものがあります。
知っておきたい「PCだけの会社」からの大変身:多角化する事業ポートフォリオ
「Lenovo = PCメーカー」というイメージは、もはや過去のものです。もちろん、PC事業は世界一の看板であり、収益の大きな柱であることに変わりはありません。しかし、同社がここ数年で最も力を入れてきたのが、事業ポートフォリオの多角化です。収入源を分散させることで、景気の波による影響を和らげ、より安定した成長を目指しています。
この取り組みの成果を示す、ひとつの重要な指標があります。それが「非PC事業の売上比率」です。2025/26年度第1四半期、この比率は47% に達したと報告されました。つまり、Lenovoの売上のほぼ半分は、もうPC以外の事業から生まれているのです。これは、かつてよりもはるかに強靭な事業基盤が構築されつつあることを意味します。
この成長を支える二大エンジンは以下の通りです。
- インフラストラクチャ・ソリューションズ・グループ(ISG):企業向けのサーバーやストレージなど、いわゆる「データセンター」を支えるハードウェア事業です。クラウド大手と一般企業の両方を狙う「二軌道戦略」を進めており、2025/26年度第2四半期の売上は前年同期比24%増の41億ドルに達しました。中でも、AI学習・推論用のAIサーバーと、電力消費を大幅に削減できる液冷ソリューション(売上成長率154%) が爆発的に伸びており、時代のニーズを的確に捉えています。
- ソリューションズ&サービス・グループ(SSG):これは、ITサポートやシステム管理、システム構築などを請け負う「サービス」事業です。ハードウェアを売りっぱなしにするのではなく、その後の運用まで含めて顧客に価値を提供します。この事業の最大の特徴はその高い収益性で、営業利益率は22%を超えています。SSGは18四半期連続で売上を伸ばし続けている、グループ内でもひときわ安定した稼ぎ頭です。
CES 2026で見えた近未来:デバイスの壁を越える「QIRA」の衝撃
企業の将来性を測る上で、技術的なロードマップは欠かせません。Lenovoがどのような未来を見据えているのか、その一端が2026年1月に開催された世界最大の家電見本市「CES 2026」で明らかになりました。
同社はステージにインテル、AMD、NVIDIAといった半導体業界の巨人たちのCEOを招き、業界内での強いパートナーシップをアピールしました。しかし、それ以上に大きな話題を呼んだのは、新しいハードウェアではなく、AIの使い方そのものを変えようとする構想でした。
それが、AIエージェント「QIRA(キラ)」 です。QIRAの目指すものは、単一のデバイス内で動くアシスタント機能を超えて、あなたのすべてのデバイス(Windows PC、Androidスマホ、タブレットなど)をシームレスにつなぐ「パーソナルAI」 になることです。LenovoのCEO、楊元慶は「ユーザーのすべてのデバイスをつなぐこと」が目的だと説明し、将来的にはLenovo製以外のデバイスにも開放される可能性さえ示唆しました。
これは、単に高性能なPCやサーバーを売ることを超えて、ユーザーのデジタル生活全体に寄り添い、デバイスを越えた継続的なサービスを通じて価値を提供しようとする、ビジネスモデルそのものの進化を志向する試みです。
まとめ:リスクを理解した上で、長期的視点で評価したいLenovo Groupの株価
ここまで、Lenovo Groupの現状と可能性を多角的に見てきました。最後に、投資判断を整理する上でのポイントをまとめます。
追い風と強み
- 明白な割安感:複数の価値評価手法が、現在の株価は企業の真の価値(内在価値)を大幅に下回っていると示唆しています。
- 具体化するAI成長:AI関連売上は急拡大中で、特にAI PCのシェア拡大と普及加速が業績を確実に底上げしています。
- 堅牢な財務と多角化:売上高と利益は記録的水準。PC依存度は下がり、高収益のサービス事業と成長中のインフラ事業が収益の土台を強固にしています。
- 先端的な技術構想:QIRAに代表される、次世代のAI活用ビジョンを自ら提案するリーダーシップ。
向かい風とリスク
- マクロ経済と地政学リスク:世界経済の減速は企業のIT支出を抑制する可能性があります。また、広域に張り巡らされたサプライチェーンは、貿易摩擦や地域紛争の影響を受けるリスクを常にはらんでいます。
- 激化する競争:AI PC市場には主要なPCメーカーが総力を挙げて参入しています。AIサーバー市場でも、専門メーカーとの競争は激しいものになるでしょう。
- 短期的な変動要因:四半期ごとの純利益が、財務上の特殊要因(例えば、社員へのストックオプションの評価額変動など)によって大きく揺さぶられる可能性があり、それが株価の乱高下を引き起こす場合があります。
総合的に見て、Lenovo Groupは世界的なPCリーダーとしての地位を盤石にすると同時に、AI時代に求められるインフラとサービスへの変革を、財務体質を損なうことなく着実に進めている企業と言えるでしょう。現在の株価の弱気な動きは、市場がこうした本質的な価値や明確な成長軌道を十分に認識していない「評価ギャップ」を生んでいる可能性があります。
投資は短期的な値動きに一喜一憂するものではなく、企業の長期的な成長可能性を見極める行為です。Lenovoの株価を考える上では、一時的な市場のノイズに惑わされず、多角的で強固な事業基盤と、AIという巨大な潮流を確実に捉えようとする戦略の具体性に注目することが、逆張りの投資機会を見出す鍵となるのではないでしょうか。
